「ね、恭介」
「ん、なに?」
「あたし、来週から北海道に行ってくる。恭介の誕生日までには戻ってくるから」
「ど、どうして…」
「あのね、あたし、こうしていると、すごく安心してる。でね…、」
「…?」
「で、ちょっと不安なの」
「な、なぜ?」
「恭介はこんなに近くにいて…これでいいハズなんだけど」
「北海道っていったら、と、遠いよね…」
北海道…その地は僕にとって敷居が高いのであり。たとえ、テレポート出来たとしても、そう安々と足を踏み入れるわけにいかない。ひかるちゃん、…彼女は小樽に住んでいる。つまり、…
まどかにしてみたら、僕が想像するより、遙かに決心がいることだったに違いなく。
「うん。ちょっと遠い方がいいかな、と思って。だって、北海道だったら恭介のパワーでもそう安々とは辿り着けないでしょ?。恭介に逢いたいと思っても、すぐに逢えない、そんな距離に自分をおいてみたいの」
「まどか…」
「心臓の音」
「………?」
「トックン、トックン。恭介の、心臓の音…」
彼女はこうして僕とベッドにいる時でさえ、ひかるちゃんのことを決して忘れてなんかおらず、ずっと大切に想っている。それにひきかえ、まどかの事ばかり考えている今の僕に、旅行の真意を訊ける資格なんて無く。
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