ひかるは路地を後にし、メインストリートに出た。そして、彼女の足取りはガラス細工のショップへ向かう。鮎川まどかが、張り紙の注意を侵してまで触ったガラス細工が無性に気になったから。
『心の結晶』
その前に立つと毛糸の手袋を外した。
<怪我をします!。“絶対”に触らないで下さい>
いつの間にか“絶対”という文字が加筆された張り紙に気付いてはいたが。
「お、お客さ……」
ひかるは躊躇しなかった。
彼女の指は鮎川まどかが触れていた部分を撫ぜた。
ひび割れた部分、欠けた部分、鋭利に尖った部分、そして滑らかな部分…
現実を見つめ、でも、心の響きを信じたっていい。
切ないことだとわかっていても、いいんだ。
やり直しなんて出来ないけど、それでいい。
鮎川まどかに身を持って教えられた気がした。
まだ、追いつけない。とも…。
檜山ひかる。18歳。
いつまでも色褪せない夏を掴まえた日。
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まどかさん。
ご無沙汰しちゃってます。ひかるです。
お元気にしていらっしゃいますか?。
クリスマス過ぎちゃったけど、カードを送らせてください。
あたしの手描きです。サンタのまどかさん。可愛いでしょ?
近況報告〜。
小樽に『心の結晶』っていう前衛芸術っぽいガラス細工の作品があるんです。最近、あたしが指を怪我したせいで、撤去されちゃいました。前にも怪我をした人がいたらしくて、あたしで2人目だったそうです。まどかさんにも見せたかったのにぃ。残念…。
今日も雪が降ってます。
でも、寒くない。そんな、ひかるでした。
fin
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